「わたしが、日本で最初の米兵のレイプ被害者だと思っていました。調べたら、ものすごい数の日本人が被害にあっていた。日本政府は、いったい今まで何をしていたの?」

米兵によるレイプ被害の体験記出版 強いられた闘い今も キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん」
… 6月13日付の東京新聞より。



ページをめくるのが、どうにもつらい。電車の中で読んでいたら、あっという間に視界がぼやけた。ところが読み進めると、だんだん力が湧いてきた。なぜ?...
 
その本が、先月末出版された『涙のあとは乾く』(講談社)。著者はオーストラリア出身で、日本に住むキャサリン・ジェーン・フィッシャーさん。二 〇〇二年、神奈川県横須賀市内で、米兵にレイプされた。勇気を出して立ち上がり、犯人や日本の警察、被害を隠す日米両政府と闘った記録をつづった。
 
「わたしが、日本で最初の米兵のレイプ被害者だと思っていました。調べたら、ものすごい数の日本人が被害にあっていた。日本政府は、いったい今まで何をしていたの?」
 

流暢な日本語で話しながら、キャサリンさんは巻物のような紙を取り出した。どんどんのばすと大蛇のように部屋中に広がった。戦後沖縄で起きた米兵の性犯罪をまとめた年表だ。
 
キャサリンさんは弁護士だった父の転勤で、三十五年前に来日した。沖縄出身の男性と結婚し、三人の息子に恵まれた。離婚して英会話講師の仕事と子育てに奮闘していた時、事件は起きた。
 
ホテルのバーで酒に薬物を入れられ、見知らぬ男にレイプされた。犯人は米軍横須賀基地の空母乗組員。基地への通報後、日本の警察が来た。男はすぐ見つかり、身元が判明した。
 
だが、さらなる悪夢が待っていた。「検証写真を撮る」と横須賀署員に現場へ連れ戻された。下着もつけていない。怖くておぞましくて泣いた。「あんたもヤリたかったんだろ」。警察官の忍び笑いが聞こえた。
 
傷だらけの体が痛んだ。病院へ行きたいと頼んだが「開いてない」と言われた。犯人の精液採取もされないまま、我慢の限界に達し「法医学的証拠は、 尿と一緒に出て行った」。極度の疲労と睡眠不足で「家に帰して」と訴えても聞き入れられない。事情聴取は翌日まで十四時間に及んだ。
 
直後から心的外傷後ストレス障害(PTSD)が襲った。眠れず食べられず、感情が制御できない。「レイプされたのはこの女だ!と空から指さされている気がした」。同居していた母までストレスで腸に穴が開き、生死をさまよった。
 
日本の検察は三カ月後、米兵を不起訴にした。理由の説明はなかった。その後、民事訴訟中なのに犯人は帰国。勝訴後、防衛省が代わりに見舞金を払った。
 
「このままでは終われない、と思ったの。だって、私は悪くない」
 
ネットで情報提供を呼びかけた。米国在住の別の被害女性から連絡があり、犯人の行方を突き止めた。米国でも訴えを起こし、勝った。その裁判では「米軍の命令で帰国した」という犯人の証言も引き出した。
 
問題の根本は、日本側の犯罪捜査や裁判権を制限する日米地位協定にある。日本にとって重要な事例以外は裁判権を放棄する」との密約まで存在する。その不条理を訴えたが、日米両政府には無視された。手弁当の闘いで、家賃や光熱費すら払えなくなった。
 
〇八年、米兵犯罪に抗議する沖縄の集会で、レイプ被害者として初めて、六千人の前で話した。七十代の女性が近づいてきて、「五十年前に米兵にレイプされたことを黙ってきたけれど、あなたのおかげで自分は悪くないと分かった。ありがとう」と泣いた。
 
欧米諸国では当たり前の二十四時間体制のレイプ被害者支援センターが日本で整備されていないことに憤る。被害直後の緊急支援からその後のケアまで 担う重要施設だが、国が十分な予算を出さず、まだ全国で二十数カ所。大半が平日昼間だけの開所だ。「二十四時間火事は起き続けないからって、平日の昼間だ け消防署を設置しますか?」
 
被害者からの相談を受け続けている。名刺には「レイプに反対するなら、地位協定を変えるべきです」と書かれている。米兵の犯罪を公平に裁く制度ができ、全国にセンターができるまで、祖国には帰れない。
 
今でも、後遺症で時折体調を崩す。「レイプ被害を思い出さない日は一日もない。でもわたしは、決してあきらめません」 

(出田阿生)



転載元: しあわせの青い鳥

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